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カンタータプロジェクト:小沼和夫

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ミステリー = バッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番 BWV1048

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 音楽は「楽しい」とか「悲しい」といった、非常に広範な情感の表現は出来ても、文字や言葉とは異なり、具体的な内容は何も表現出来ないと云って構わないでしょう。たとえばベルリオーズの幻想交響曲のように「死刑台への行進」を表現したはずが、「楽しい遠足」に聴こえてしまうということも往々にしてあるのです。
 にも拘らずバッハのカンタータは、当時のルター派の礼拝で当日朗読される聖書の内容を説明する「説教音楽」として位置づけられていました。何故そんなことが可能だったのかには、2つ理由があります。

 第1には、バッハはカンタータの中でコラール(当時のルター派の讃美歌)旋律を引用します。生活へのキリスト教の影響力の大きかった時代ですから、人々は讃美歌の歌詞を覚えています。それが歌詞なしで、例えばオーボエによって演奏されたとしても、そこでバッハが何を伝えたかったを人々は理解したというわけです。
 第2には、ちょうど日本の能の「所作」のように、バロック時代には特定の音型が、特定の内容を表わすという一種の決まり事がありました。たとえば悲しい曲調の部分に現われたスタッカートは「涙」、交差する鋭い音程は「十字架」というようにです。
 こうして、バッハは当時の会衆に、聖書の教えるところを説いていたのです。

 そのバッハがレオポルト・アンハルト=ケーテン侯の宮廷に奉職します。アンハルト=ケーテン侯の宮廷は、カルヴァン派、あるいは改革派というプロテスタントの宗派に属していました。カルヴァン派では会衆の歌う讃美歌のみが、礼拝内で許容される音楽です。カンタータの出番はありません。そこでバッハは、宮廷の器楽曲の中にカンタータの手法を忍び込ませることにしました(…と私は推理します)。ブランデンブルク協奏曲第3番です。

 ブランデンブルク協奏曲第3番の最大の特徴は、たった2つの和音だけの、異様なほど短い第2楽章です。しかも両端楽章が同じト長調で、転調の必要もないのにフリギア終止です。

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 「宮廷の名手のカデンツァのため」というのはありそうなことですが、私は違うと思います。もちろん若干のカデンツァは入れたはずですが、短いものだったでしょう。
 この曲では第3楽章で起きる出来事が、第1楽章の気分を説明しています。すると第2楽章は「何故ならば」の「倒置」のためだけに置かれているのです(…と私は推理しています)。

 第1楽章は、16分音符2個と8分音符の組み合わせから成るリズム動機の繰り返しで始まります。これは当時「喜びのリズム」とされたリズム動機です。楽章の半ばで、単純な三和音の分散和音型で始まる、別の旋律が現われます。これは「ファンファーレ」です。つまり第1楽章は「喜びの行進」、あるいは「勝利の行進」と理解されます。

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 そして第2楽章は「何故ならば」です。「これから第3楽章が、第1楽章で喜ばしかった理由を説明しますよ」というわけです。

 第3楽章はヴァイオリン群が演奏する16分音符で始まります。この16分音符は激しく上下する音階進行です。この音型が意味するものは、バロック時代では「蛇」です。「蛇」は「サタンの軍勢」の象徴です。そしてこれと同時に演奏される対旋律(伴奏音型ではありません)が分散和音型、つまり天の軍勢のファンファーレです。

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 最後には16分音符を演奏するパートは1人だけになって最低音までくずおれ、分散和音型は高音域まで上昇して終わります。「天の軍勢の勝利」です。

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 ここまでお話しすると、カンタータ好きの方はもう答えが分かっていると思います。ブランデンブルク協奏曲第3番は、ミカエル祭のカンタータそのものなのです(…と確信を持って私は推理しています)。

 最初に「カンタータの手法を忍び込ませ…」と書きましたが、バッハは曲の意図をケーテン侯に対して隠し通そうと考えたわけではないと思います。むしろ「この協奏曲の意味は?」と、謎解きを仕掛けたというのが妥当なところでしょう。

 以上のことは、少なくとも今までに私が読んだ、いかなる音楽書にも書かれていません。ですから私の妄想かもしれません。けれども確信を持って、私はこう推理しています。


   
by TheSonicBird | 2014-03-31 14:51 | ● 曲目解説

現代から遡って過去の作品に至るのではなく、ルネッサンスから下って来てバロックや古典に至る。それが私の視点です。そのために自分の感性や人格を改造し続けています。その過程に共感していただければ幸いです。


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